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飯森クリニック

対象疾患と治療

  内科の対象疾患

 

実は、内科診療の中で心身医学的なアプローチが有効な場合も多い。一般的な咳止めが効かない患者さんの中に、咳喘息cough variant asthma)や咳がストレスによるものである 神経性咳漱 の患者さんが含まれていたりするので注意が必要である。

かぜ症候群

タミフル、リレンザ等の抗インフルエンザ薬を除いて、感冒に対して現代医学的には十分な治療法はない。   感冒で熱が出ることにより、細菌やウィルスの増殖が抑えられ免疫能が高まるのに、解熱剤で熱を下げるのは反治療的である。症状を抑えて無理に活動すると、交感神経が興奮して免疫が抑えられる。安静によって副交感神経優位になると免疫能が高まる。漢方薬は生体が熱を産生しようとする力を援助し、生体が必要とした体温レベルまで達すると生体の抗ウィルス作用が活性化されて生体は治癒に向う。漢方薬は感冒初期に対して体質等に合わせて10種類以上の薬が用意されている。

症例1

68歳A子さんは、実家へ戻った時に感冒にかかり、近医2ヶ所に受診するが一向に良くならない。そこで以前当院で処方された 小青竜湯 が旅行かばんの中に入っていること思い出し、熱いお湯に溶いて飲んだところ、みるみる回復して、翌日にはすっかり良くなってしまった。

症例2

18歳のB男は39℃の高熱、口渇、咽頭痛、関節痛と精神不穏を訴え、次の日試験なので何とかして欲しいと来院。体力がありそうなので、大青竜湯 (=麻黄湯+越婢加朮湯)の証と考え処方した。一服でみるみる良くなり、次の日無事に受検できたとの報告があった。

 

症例3

65歳のC子さんは虚弱体質ですぐに調子を崩すと言います。数日前から喉がチクチクして体がだるいが、発熱はない。脚が冷えるとの訴えもあった.脈は触れず沈んでいたので、直中の少陰 と考え 麻黄附子細辛湯 処方したところ直ぐにすっかり良くなった。

症例4

5歳のD子さんは発熱、口渇、発汗はあるが寒気は少ない桂枝二越脾一湯 と、咽頭が赤いので、抗生剤を処方したところ、2日程で軽快した。

生活習慣病

糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病は現在注目されている疾患である。それは、血管が詰まったり切れやすくなったりする 動脈硬化症 と関係があるからである。動脈硬化が悪化すると脳出血、脳梗塞(脳の血管が詰まる病気)、狭心症(心臓に養分を供給している冠状動脈が狭くなる病気)や心筋梗塞(冠状動脈が詰まり心臓の筋肉が死んでしまう病気)の他、様々な疾患と関係する。しかしながら、その治療は簡単のようで簡単ではない。なぜなら、生活習慣の問題は全人的な問題だからである。糖尿病、高血圧は代表的な心身症(心と身体の間に相関が認められる状態)の一つと考えているし、高脂血症をはじめとするメタボリックシンドロームには栄養指導と運動療法は必須である。当院では、土曜日と月曜日に、管理栄養士による面接(午前中)が行われている。

症例1

42歳男性。最近、健診で高血圧と高脂血症を指摘され、近医受診するもコントロール不良なため当院来院となった。注意深く問診すると、最近会社の人間関係がうまくいかず、夜も眠れず、暴飲暴食を繰り返していたという。患者さんの性格にあった向精神薬、降圧薬、高脂血症薬、漢方薬を処方しながら、管理栄養士による食事療法と運動療法を併用したところ、徐々に血圧は下がり、眠れるようになり、コレステロールの値も正常化した。

症例2

50歳女性。閉経してから高脂血症指摘され、顔がほてる、イライラするなどの症状がひどくなり来院。SSRIと漢方薬の処方し、管理栄養士の面接を併用した処、コレステロールの値は正常化し、更年期症状も軽快するようになった。

症例3

45歳男性。5年前の検診で血糖が高いことが指摘されたが放置していた。先日、職場の産業医から呼び出され医療機関受診を強く勧めらた。近くの内科を受診したところ、治療が必要なことを指摘された。しかし、自覚症状は全くなくその指摘にも否定的で怒りを表出していた。一般的にいって、糖尿病 の治療は薬物療法に加え、食事や運動という自己管理が大切だが、この自己管理がうまくいくかどうかは、患者の心理社会的要因が大きく影響を及ぼしている。このような患者は、糖尿病やその治療に対する医学的に誤った信念を持ち、糖尿病の受容ができず、その治療も受け入れにくいといった特徴がある。従って、その治療は、(1)医師患者間の信頼関係を確立し、(2)治療の主体を患者にゆだねる必要がある。その為には、患者を理解しようとし、無知の姿勢で聞き、考えを押し付けない心構えが必要である。心療内科的対応が必要な症例である。

  アレルギー科の対象疾患

 

アレルギー疾患の中に心身症と考えられる病態の人が多い。ストレスが加わるとアレルギー症状が悪化し、リラックスすると軽快する症例に遭遇する事も多い。これは血液中の白血球の成分であるヘルパーリンパ球をタイプ1(Th1:アレルギー反応が起こりにくいヘルパーリンパ球)とタイプ2(Th2:アレルギー反応が起こり易いヘルパーリンパ球)に分けた場合、ストレスによりTh1がTh2に移行し、リラクゼーションにより、Th2がTh1に移行するという研究結果と一致する。

アレルギー性鼻炎

鼻水主体の患者さんには抗ヒスタミン薬、鼻閉中心の患者さんには抗ロイコトルエン薬か、抗トロンボキサン薬という教科書的な知識が普及していないのは嘆かわしい。更に鼻閉には漢方薬の適応もある。吸入薬は、フルナーゼの様な1日2回吸入のもの主体であったが、最近はナゾネックスの様な1日1回吸入のものが出てきた。さらに、薬を使わないでいられるようになりたいという患者さんには、まずは非特異的な(アレルゲンの種類を問わない)減感作療法を勧めている。週1回の注射で5ヶ月、週2回の注射で10ヶ月かかるが症状が著明に軽減した、なくなったとの報告が殆どである。特異的な(スギだけという様にアレルゲンが特定されている)減感作療法も施行しているが、5年以上治療期間がかかる。それでもという希望者には施行している。

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は心身症に代表的な疾患の一つに数えられるようになった。心身医学的なアプローチの他、漢方薬治療、さらに減感作療法の併用で、今まで軽快していなかった患者さんも快方に向かう例も多い。ステロイドの使い方も誤っている場合も多い。難治例に対しては、催眠療法や臨床動作法の併用を施行する場合もある。

  心療内科の対象疾患

 

  私は元々精神科志望であった。医学部を出て心理療法が出来る医者になろうと考えていた。しかしながら、 学生時代に精神科が心理療法を重視しない科(精神科医の中で心理療法に極めて詳しい先生も居られるが、少数派である)であることを知り悩んでいたところ、和漢診療部の寺澤教授に心療内科をしてみたらどうかとの助言を頂いた。九州大学心療内科の夏期講習に参加してみたり、全人的医療を考える会に参加してみたりしている内に、心療内科を専攻することを決意した。心療内科はまさに全人的医療を実践する科で、様々な知識を必要とする。幸い、医学部に入る前に様々な職種を経験したり、挫折感を味わう場面にたくさん遭遇したりしたお陰で、患者さんの置かれている心理社会的な状況を理解し共感できる素地は人一倍あると自負している。専門性を高める為に心身医療「内科」専門医(日本心身医学会) 日本心療内科学会専門医の資格を取得した。心療内科はそもそも心身症を診る科であるが、「心身症」は診断名ではなく状態名である。心身相関が 認められる気管支喘息を気管支喘息(心身症)と記載する。

気管支喘息(心身症)

   気管支喘息患者の約8割は心身症である。昔は呼吸器科的な治療だけではうまくいかなかった症例に対て、    心身医学的アプローチが著効した。現在は吸入療法等の普及により、心身症の患者であっても必ずしも心身   医学的アプローチをしなくともコントロール出来る症例も増えてきた。しかし、難治例に対して呼吸器科か  らの紹介も増えてきた。

過換気症候群(心身症)

  過換気症候群は不安緊張の為に過呼吸になり、二酸化炭素が過剰に体外に排出されることにより血液がアルカリ性になり脳血管が収縮し、呼吸困難感や四肢のしびれなどの症状が出現する病気である。発作時の治療と非発作時の治療は異なるが、発作時に紙袋療法(薬も何もない時に紙袋を口に当て、紙袋内にある二酸化炭素を多く含む呼気を再び吸い込む事により、少しでも血中の二酸化炭素を増やそうとする方法:現在はこの方法により死亡例がでた為禁止!)だけで済まそうとする無責任な病院が多い。発作時の治療は患者さんの不安な気持ちの受容、抗不安薬(セルシン)の筋注と呼吸法の指導である。更に、気管支喘息との合併例については治療法が正反対なので特に注意が必要である。気管支喘息の患者さんが呼吸困難で救急外来を訪れた場合、きちんと診断されずに(本当は過換気の発作なのに)喘息発作の治療(例えばβ−刺激剤)を受けて悪化し、病院側からは「わがままな患者」として処理された為に極度の不安状態に陥った患者をかつてたくさん経験したので、症例を数例集めて研究会に報告したことがある。(注:パニック症候群は精神科の診断名で、過換気症候群と合併することが多い。過呼吸発作は動脈血中の二酸化炭素の低下と動脈血がアルカリ性に傾いていることより診断されるが、パニック発作は症状の数により診断される)

神経性咳漱(心身症)

 咳止めが効かない患者さんの中に、ストレスによる咳の場合がある。心身医学的アプローチにより著効する。例えば、抗うつ薬や抗不安薬が奏功する。

過敏性腸症候群(心身症)

「腸は心の鏡である」と言われる。断腸の思い」「はらわたが煮えくりかえる」などの例を出すまでもなく、心の状態が胃腸の調子に影響する。心身医学的アプローチ、漢方治療の良い適応である。当院では難治例に対しては催眠療法等の心理療法を併用することも出来る。

緊張性頭痛(心身症)

頭痛の中で最も多い頭痛でストレスが原因であることが多い。当院においても、うつ状態との合併例が非常に多い。漢方薬の良い適応で、難治例に対しては臨床動作法を併用する。

自律神経失調症(心身症)

本疾患の病名が安易に使われているきらいがある。当院においては、自律神経機能は心拍変動、立位心電図、CMI自律神経失調項目数などできちんと診断しているし、これらは経過観察にも使える。他に診断がつかない場合も本疾患の診断がつき、ほっとしたと言われる場合もままある。

  精神科の対象疾患

 

 精神科領域は統合失調症以外の病気で、当院で治療可能な場合ないしは当院でしか治療出来ない症例(身体症状が強く出ている症例や専門的な心理療法が必要な症例)は積極的に診療している。近年、うつ病や双極性障害の患者が増えてきた。双極性障害の中でも双極II型障害のうつ状態はうつ病と鑑別が難しいが治療薬はまったく異なる。中々治らないうつ状態の若年例は、双極性障害を疑って治療薬を変更するとよくなることが多い。双極うつに奏功する治療薬も近年開発されている。統合失調症であってもうつ病と見分けのつかない陰性症状が主体の場合、薬により安定化することが多いので診療することもあるが、基本的には統合失調症は精神科専門の病院へ紹介している。重症化した うつ病やデイケアが必要な病態の場合も精神科専門の病院へ紹介している。

うつ病

 ストレスによりうつ状態になる人は多い。うつ病は精神症状だけでなく身体症状も認められることが多いので、最初はほとんど内科を訪れるといわれている。抗うつ薬だけでなく、内科的な薬や漢方薬を併用すると、「こんなに良くなるのですか!」と驚きの声が聞かれる。加えて、認知療法的な関わりをすると、治癒する確率は高くなる。薬物療法と休養で治癒しやすい性格反応型のうつ病だけでなく、場合によってはカウンセリングが必要な葛藤反応型のうつ病も当院では多い。併設の研究所にベテランの臨床心理士が多数在籍しているので、様々な病態に対して対応が可能である。更に、近年非定型うつ病と診断される「うつ病」が若者を中心に多くなった。治療法が異なるので注意が必要である。また、陽性症状がめだたない統合失調症患者を抗うつ薬だけで治療していると治らないだけでなく統合失調症が悪化すると言われているが、薬を工夫すると安定化する例も多い。猶、うつ病と見分けがつきにくい甲状腺機能低下症や睡眠時無呼吸症候群も少なからず発見している。このように、DSM-Vで大うつ病性障害と診断しうる患者さんにも様々な病態が混在しているので、注意深く診療している。

 

 

パニック障害

  本疾患と過換気症候群との合併例は多いが、診断方法が異なる。パニック発作そのものは薬物療法でコントロール可能であるが、薬を減量していくときに自律訓練法や呼吸法等の療法が必要な場合がある。急行列車や電車そのものに乗れない等の 広場恐怖 を伴う事も多く、社会生活に困難を感じている症例も多い。自然に軽快する場合、自分で暴露療法試みる事により軽快する場合もあるが、催眠療法等を併用すると改善が早い。

強迫性障害

本疾患を治療している施設は関東圏には少ない。当院併設の研究所には本疾患の専門家が在籍しているので、入院が必要な場合以外は受け入れ可能である。薬物療法と行動療法で軽快する場合が多いが、臨床動作法が著効した例や精神分析的心理療法が有効な場合もある。

社交不安障害

従来は性格の問題として治療の対象となることが少なかったが、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が本疾患に有効であることが分かってから積極的に治療するようになった。薬物療法だけでは治りが遅い場合は積極的に心理療法を併用している。

PTSD

薬物療法に加えて、EMDR催眠療法臨床動作法等の心理療法を加えて治療している。患者さんとの信頼関係が築けない場合は治療が難しい。自動車事故等、単回のトラウマの処理にはEMDRが著効する。

  耳鼻科の対象疾患

めまい症

耳鼻科で良くならないめまい症はよく心療内科に紹介されてくる。回転性のめまい(vertigo)と非回転性のめまい感(dizziness)があるが、めまいはメニエール病、めまい感は自律神経失調症に多い。メニエール病も自律神経失調症も心身症である

耳鳴症

耳鳴りは耳鼻科で治らないと言われて治療を断念している場合が多い。しかしながら、西洋薬、漢方薬の中で本人に合ったものを選べば治る確率は高い。「まさか耳鳴りが消えるとは思わなかった。一生の付き合いですねと言われていたから、とてもうれしい」とよく言われる。例え消えなくとも、心身医学的アプローチによって、「聞こえてはいるが気にならない」と言われる。

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